冬限定のチョコアイス Presented by なばり みずき
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それはアイスクリームショップの前。 「あっ、新作!」 しかも冬限定のチョコレートだ。 香穂子は思わずショーウインドウに駆け寄った。 後ろからやれやれとため息をつきながら彼が覗き込んでくる。 「こんな寒い時によくアイスなんか食べたいと思うよな」 「だっておいしそうじゃない」 「腹壊すぞ」 「壊しません!」 子供みたいに言い張ると、彼はしょうがないなって顔をして財布を取り出した。 「え、いいですよ。アイスくらい自分で買いますってば」 「そんなこと言って、今月お小遣いもうないって言ってたのどこの誰だ?」 「それは先月の話でしょ。今月は大丈夫。そっちだって給料日前なんだから無理しないで」 不本意そうな金澤を手で制し、香穂子は自分の財布を掲げて見せる。言い出したら聞かない性格なのはよく知っているから、彼はそれ以上何も言わずに苦笑だけして財布をしまった。 気分的にはダブルでも平気だったけど、心配をかけるのは本意じゃないからシングルにしておく。 注文を済ませて、コーンの上に丸いアイスを乗るのをワクワクしながら見守った。 他の客の邪魔になるからと場を離れた彼は、自動販売機で何か買っている。 アイスを受け取って走り寄ったら、ちょうど缶コーヒーのプルタブを開けているところだった。小さな飲み口から微かに湯気が立ち上る。 適当なベンチに腰掛けて、香穂子はアイスを、金澤はコーヒーを味わった。 「寒くないのか?」 「全然」 「子供は風の子だもんな」 「じゃあその子供とお付き合いしてる先生は何?」 「外で先生って呼ぶなよ」 「じゃあ……紘人さん?」 「……いや、やっぱ先生でいい」 「ええ、なんで? せっかくなんだから、こう、恋人らしく呼んだって……」 「急かすなよ。こっちは恋愛リハビリ中なんだ」 よく見るとかすかに顔が赤い。 照れているのだろうか。 無精髭に覆われた横顔を盗み見ながら、香穂子はとても得した気分を味わった。 それは、冬限定のチョコアイスよりも、よっぽど甘くて幸せなひととき。 |
えらい時季外れ(今は5月ですよ)の小ネタですね。 因みに、なばり初挑戦の金澤×香穂子です。 土浦×香穂子を書こうと思ってフォルダを漁ったら書きかけのこれが出てきました。 で、せっかくなので書き上げてアップしたわけです。 拍手とかに使えたら良かったな〜という長さですね。 もっと練って長くしてもよかったのですが、まあそれは気が向いたらということで。 |