彼女の不意打ち Presented by Suzume
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「せーんせ!」 聞き慣れた愛しい少女の声に振り向いたら、彼女はぐぃっと腕を引いた。 咄嗟のことでバランスを崩しかけたが何とか持ち堪える。 その隙を衝くかのように香穂子は伸び上がって彼の頬にキスをした。 「こら」 「……痛い……」 窘めようと軽く睨んだが、恨みがましい目にぶつかって言葉を失う。 いつ人の目に触れるか判らないようなところで軽率な行動を取ったのは香穂子だ。 だから本来、怒るとしたらそれは金澤の役目なはずだ。 しかし、彼女は自分のしたことを棚上げして、憎らしいくらい愛らしい顔で上目遣いに睨んでくるものだから、何だかこちらの方が悪いことをした気分になってきてしまった。 「日野?」 困って名前を呼んだら、彼女は子供のように頬を膨らませて、 「ヒゲ……」と呟いた。 「ヒゲ?」 「無精ヒゲが当たって痛かったんです!」 香穂子は拗ねたようにそう言ってぷぃっとそっぽを向いた。 あぁ、もぅ、本当に……。 金澤は左右を見回し、人が見ていないのを確認して、 「そりゃ、大人に悪戯しようとしたバチが当たったんだよ」と、言うが早いか素早く彼女の額に口づけた。 香穂子は「きゃっ」だか「ひゃっ」だか声を上げて慌てたように額を押さえた。 「俺に不意打ち食らわせるなんざ、10年早い」 金澤はそう言って彼女の頭をポンッと撫でて、足早にその場を立ち去った。 後ろからは悔しそうな香穂子の呻き声が聞こえてくる。 彼女は、だから気づかなかった。 金澤の頬が微かに赤らんでいたことにも、その頬が少し緩んでいたことにも。 そう――香穂子の不意打ちは、実はちゃんと成功していたのだった。 |
拍手の御礼用掌編としてアップしていたものです。 またしても微妙に振り回されている金澤先生なのでした。 ヒゲってあのくらいの長さだとチクチクしますよね(苦笑) |