渋滞 Presented by Suzume
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今日が連休の最終日だったというのを思い出したのはしっかり渋滞にはまってしまってからだった。 もっと早くに気づいていれば少し手前の抜け道を使えたのにと後悔しても時すでに遅しだ。 「こりゃ動きそうにねえなぁ」 真咲はフロントパネルのデジタル時計に目をやって溜息をついた。 一人で帰すのは危なっかしいという建前のもと、もう少し一緒にいたいという気持ちから安易に送っていくなんて言ってしまったが、これでは逆に申し訳ない。 「悪ぃな、逆に遅くなっちまって」 そう謝罪した彼に、助手席の後輩は窓の外を見ていた顔をこちらに向けて首を振った。 「全然平気です。先輩と長くいられて、却ってラッキーですよ」 るりは社交辞令ばかりとは思えない調子でそう言って小さく笑った。 そして、今日は家の人が出かけていて、少しくらいなら遅くなっても平気なのだと罪な台詞を吐いた。 前の車のテールランプに照らされた横顔を盗み見ても、そこにはこれっぽっちも気負った雰囲気は察せられなくて、真咲はその無自覚さに乾いた笑いを漏らした。 「でも、車って不便ですよね」 「そうだな。普段は結構便利だけど、こういうときばっかりはなぁ」 道の先まで延々と続くテールランプの列を眺めるともなく眺めながら、彼はげんなりして頷いた。 「そうじゃなくて」 るりはくすくす笑いながら真咲の言葉を否定した。 「渋滞は、それを口実に先輩と長くいられるからラッキーですけど。不便なのは……こんなに近くにいるのに、手も握れないってこと」 悪戯っぽく覗き込んでくる表情に思わず心臓が撥ねた。 おいおい、勘弁してくれよ……と胸の内で舌打ちする。 こういう場面でそんな可愛いことを言われたら、自分でなくたって勘違いするというものだろう。 「おまえ、誰彼構わずそんなこと言ってると、いつか痛い目に遭うぞ」 突き崩されそうになった自制心をギリギリのところで抑え込み、彼は呆れた風を装って、頭を掻きつつ速まる鼓動を誤魔化した。 「誰彼構わずなんて言いませんよ」 ぽつりと呟かれた言葉は自惚れてしまいたくなるくらい甘美な響きを伴っていて、ますます彼を追い詰める。 「おまえ、もしかして天然に見せかけてオレの自制心試してるんじゃねえだろうなぁ?」 思わず半眼でぼやいたら、るりは目を瞬かせて見つめ返してきた。 どうやら正真正銘の天然小悪魔のようだ。 真咲は肩を落として嘆息し、ギアをトントンと指で叩いた。 「この車、オートマだからな。手を繋ぐってのは無理だけど、おまえがここに手を置くなら、重ねてるくらいならできるぞ」 照れ隠しのため素っ気なく言った彼に、るりはすぐさま満面に笑みを浮かべながら恐る恐るギアに手を乗せた。 ほっそりとしたその手の上に自分の手を重ねると、傍らから嬉しそうな笑い声が響いてきて、いろいろ考えているのが何だか馬鹿馬鹿しく思えてきた。 恋に夢見るお姫様は、こんな恋愛ごっこも楽しくて仕方ないのだろう。 胸に宿るのは切ない痛みと幸福感――どちらが優るかなんて言うに及ばない。 ここは素直にアクシデントがもたらしてくれたささやかな幸せを甘受した方が良さそうだ。 真咲は渋滞が少しでも長く続くことを心密かに願いながら、愛しい少女の手を優しく握ってやった。 |
真咲先輩に萌えに萌えてる相方への更なる燃料投下を狙って書いた話です。 ドライブデート(アプローチ付き)はどれもこれも良いですよね! 真咲先輩の反応を楽しんでるとしか思えない天然小悪魔な主人公ちゃんがブラボーです(笑) |