誕生日

Presented by なばり みずき
illustration by 桃瀬 玲



「敦盛さん、手を出して下さい」
 上目遣いで言った望美に、敦盛は素直に右手を差し出した。
 彼の穏やかな眼差しを見ていると少しだけ鼓動が早くなる。
 いや、この鼓動の速さは緊張のせいかもしれない。
 頬を染めてそんなことを思いながら、望美は彼の掌に小さな布の袋を置いた。
「これは?」
 敦盛が不思議そうに訊ねる。
「えっとですね、それはお守り袋です」
 望美が言うと、彼は微かに目を瞠って、その布の袋をまじまじと凝視した。
「あんまりお裁縫得意じゃなくて、ちょっと不格好になっちゃいましたけど……」
 真剣な眼差しが恥ずかしくなって思わず言い訳が口を突いて出る。
 布地は極上の物を九郎から少しだけ分けて貰って、裁縫道具は朔から借りたものだ。
 縫い目は多少不揃いだけれど、込めた想いにだけは自信がある。
 誰よりも哀しい宿命に立ち向かっている彼だから誰よりも幸せになってほしい。
 その想いは今の望美にとって何よりも強いものだった。
「なぜこれを、私に?」
「私が元いた世界では誕生日――その人が生まれた日にお祝いするんですよ。今日が敦盛さんの誕生日だって聞いたから、それで作ったんです」
「私などのために、すまない……」
「そんな風に言わないで下さい。敦盛さんのためだから、私、得意じゃない裁縫も頑張ったんですよ。大好きな敦盛さんのお誕生日をお祝いしたいから。それなのに、いくら敦盛さんでもその人のことを『など』なんて言わないで下さい」
 人差し指を立てて、子供を諭すように言い聞かせる。
「それにね、その『すまない』もやめて下さいってば。こういう時は『ありがとう』って言って貰った方が嬉しいです」
 望美が笑顔でそう言うと、敦盛は頼りなげに視線を揺らして、それから少し伏し目がちに「ありがとう」と呟いた。照れているのか、頬が微かに赤らんでいる。
 その瞬間、望美の胸の中に温かいものが広がった。
 くすぐったいような、嬉しいような、優しい気持ちが身体中に染み渡っていく。
 この何とも言えない幸せな気持ちは敦盛だけが与えてくれる感情だ。
 こちらこそありがとうと言いたい気持ちになってくる。
「礼と言ってはなんだが、何か私に出来ることはないだろうか?」
「え?」
 思ってもみなかった言葉に今度は望美が目を瞠る番だった。
 実を言えば、おねだりしたいことはひとつだけある。
 彼女は少し迷って、それからその願い事をそっと彼の耳元に囁いた。
「……そんなことでいいのか?」
「はい。でも、敦盛さんが嫌なら……」
「神子がそう望むなら、私は構わない。いや、本当は私の方こそ……」
 そう言って、敦盛は望美をそっと抱き寄せると、おずおずと桜色の唇に口づけた。
「お誕生日おめでとう、敦盛さん」
「ありがとう、神子」
 至近距離で見つめ合い、二人は再びそっと接吻を交わした。
 この幸福な瞬間を互いの胸に刻みつけるように――。











アップ自体は一日遅れになってしまいましたが、敦盛さんのお誕生日に合わせて書きました。
最初思いついた時のイメージでは5〜6行の短いネタだったので
桃瀬ちゃんにオエビで絵を描いて貰ってそれに添え物として書く形で……と 思ってたのですが
いざ書き始めたら微妙な長さになってしまったので、こちらにアップしました。
でもこのカップリングは本当に難しいですね。
何はともあれ、敦盛さん、お誕生日おめでとうございます!!

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