サンプル2(隠しきれない嫉妬心)

Presented by Suzume

「君のことで何か言われたというわけじゃない。サボろうとしていたナイトメア様が、ちょっとした反撃を試みてきただけだ」
 頭の回転が速い彼女だから、どこまで誤魔化されてくれるかは疑問だが、グレイは努めて平静を装って説明した。
 これが人の心の表面しか読まないあの困った上司だったらこのまま言いくるめることも可能だが、相手はアリスだ。思うようにはいかないだろう。
 ナイトメアに絡まれたことを話すのはやむを得ないとしても、彼女が何らかの自責の念に駆られるのは本意ではない。
 と、グレイは少し離れたところから部下達が様子を窺っているのに気がついた。
 自分はともかく、痴話喧嘩だ愁嘆場だと妙な噂になったりしたら、きっとアリスは気にするだろう。
 次から次へと降りかかる厄災にややげんなりしながら、彼は恋人の頭をぽんっと撫でた。
「ともあれ、いつまでも廊下で立ち話というわけにもいかない。ここは部下達も通るし、人目に付く。話は俺の部屋でしよう」
「え、あ、ちょっと、グレイ……!」
 有無を言わさぬ強引さで、グレイはアリスの背に手を回した。そしてその華奢な肩を抱くようにして歩き出した。



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