サンプル(玄徳×花本「恋ひ、明かす」より)

Presented by Suzume

「おまえがあまりにも平気そうな素振りだったから、つい茶化してしまったんだ。もう少し寂しそうな様子を見せてくれてもいいのに、と思ってな」
 ずるい……と花は心の中で独白した。
 慈しみに満ちた表情でそんなことを言われたらずるずる甘えたくなってしまう。心配をかけたり、足手纏いになったりしたくなくて、自分なりにいろいろ自制しているというのに。
「……玄徳さんの方こそ、全然平気そうじゃないですか」
 思わず拗ねた口調で言ってしまったのは、もしかしたら自制の箍が外れかけていたからかもしれない。
 顔を俯けて上着の裾をきゅっ、と掴んだ彼女の頭上で、溜息とも笑いともつかない吐息が聞こえた。
 気を引かれるように目を上げたら、何とも微妙な表情の玄徳が物言いた気な表情でこちらをまっすぐ見つめていた。視線に搦め捕られたように鼓動が落ち着かなく飛び跳ねる。
「玄徳さん?」
「そう見えるか?」
「え?」
「俺がおまえと離れて、全然平気そうに見えるか?」
 尋ねる口調や見つめる眼差しは恥ずかしくなってしまうくらい優しい。
 それなのに、花はなぜか詰問されているような錯覚に陥った。
 いや、詰問というのとは少し違うだろうか。詰るというより落胆だとか期待外れだとか、そういった表現の方がしっくりくるかもしれない。その上で責められているように思えた。もしかしたら全部こちらの自惚れがそう感じさせただけなのかもしれないが。
 もしもこれが自惚れだとしたら恥ずかしいことこの上ないが、とはいえ、そうでなければ彼の問いは成り立たない。
 花は頭の片隅で主張する「もし」を無視して、玄徳の目を見つめ返した。



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