Holly Presented by Suzume
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マンションのエントランスには一週間ほど前からクリスマスツリーが飾られていた。 住人の誰かが持ち寄ったのか、あるいは鷹士やヒトミが増やしているのか、ツリーのオーナメントは当日が近づくにつれて賑やかになっていって、いつのまにか飾り付けはマンションの2つめのドア――防犯のため設置されたテンキーを操作して開けるタイプのドア――の上にまで達していた。 最初にそれを見たとき、洒落たことをするやつがいるな、と思った。 鷹士がやったのだとしたら、彼はその飾りが持つ意味を知らなかったということだろう。 知っていたらみすみすこんな危険な真似はしなかったに違いない。 まぁ誰がやったにしても構わない。 奇しくも今日はクリスマス・イブなのだし、せっかくだから楽しい企画に乗らせて貰うだけだ。 彼は喉の奥をくくっ、と鳴らして、後からやってくる愛しい少女を待った。 ドアの上に飾られた柊のリースを眺めながら。 白い息を吐きながら買い物から帰ってきたヒトミは、マンションの入口近くに恋人の姿を見つけて声をかけた。 ほんの10m程度でも一緒に歩けるのが嬉しい。 しかし彼は、ヒトミがポストの中身を確認している間にさっさと歩いていってしまった。 どうせなら待っていてくれればいいのに思ったのも束の間、防犯用に設置されている奥のドアの前で立ち止まり、もう一度、今度は「早く来いよ」と言うような顔でこちらを見た。 奥のドアは自動ドアになっているから一度閉まったらまたテンキーを操作して開けなければならないのだが、彼は先にそれを開けた状態で待っていてくれたのだ。 ささやかな優しさにまた嬉しくなってぱたぱたと近寄った彼女は、ドアをくぐる直前にぐぃっと抱き寄せられた。 キスされていると気づいたのは既に10秒ほど経ってからだ。 驚いて目を白黒させていたら、抱き締めていた腕が緩んで解放された。 「な、なな……」 何するんですか、という言葉すら出てこない。 ただ口をぱくぱくさせていたら、彼――若月龍太郎は悪戯が成功した子供みたいな得意そうな顔で笑った。 「知らないのか? クリスマスの日、柊の下ではキスしても良いことになってるんだぜ?」 その話はヒトミも聞いたことがある。 でも、だからといって何もこんな誰が通るかわからないような場所でしなくても……と思わず恨みがましい目で見上げてしまった。 キスは嬉しいけど、そういうことは誰にも見られない場所でしてほしいのに。 「そんな誘うような目で見るなよ」 笑いを含んだ声で囁かれ、ますます顔が熱くなった。 「さ、誘ってなんか……」 「何だ、違ったのか? おかしいな、オレ様には「こんな場所じゃなくて、もっと落ち着ける場所でキスして欲しい」って言ってるようにしか見えないんだがなぁ?」 茶化すような言葉はこちらの心中をあまりに的確に言い当てていたものだから、ヒトミは反射的に自分の顔を手で覆って俯いた。 その行動が彼の台詞を肯定してしまったなんてことには全く気がつかなかった。 と、頭上から笑い声が降ってきて、頭を乱暴に撫でられた。 「ほんと、お前は可愛いな」 若月はそう言ってひとしきり笑った後、 「来いよ。オレ様はサンタじゃねぇが、良い子にはプレゼントをしてやらないとな」と、まだパニクっている彼女の肩を抱いて自室へと誘なった。 それから二人は彼の部屋へと場所を移して、蕩けるような口づけを交わした。 彼女の密やかな望み通り、誰の目も気にすることなく、クリスマスケーキよりも甘い口づけを。 |
メリークリスマスです! 突発的にクリスマス小ネタが転がり落ちてきたので勢いに任せて書き上げてみました! タイトルの「Holly」は「柊」のことです。 音が似ているのでHollyとHoly(Holy Night=聖夜)を引っかけてみました。 ささやかですが、ラブレボで仲良くして頂いている皆様に クリスマスプレゼントのつもりでひっそり捧げさせて頂きたいと思います(迷惑な) え、えぇーと、当然受け取り拒否も可ですので! |