ひとやすみ

Presented by Suzume

「師匠、疲れてます?」
「そりゃぁね」
 うずたかく積まれた竹簡の山――これを僅か一日で決裁したのだから疲れていないはずがない。凝り固まった身体を解すように首を回していたら、不意に影が差した。
「じゃぁ、ちょっと失礼します」
 次の瞬間、額に柔らかく温かい感触が舞い降りた。
 それが花の唇によるものだと気付いて、孔明は頬へ一気に熱が上るのを感じた。
 予期せぬ事態に動揺して反射的に突き放してしまいたい衝動に駆られたが、すぐさま戻って来た理性がそれを留める。
 この可愛くも愛おしい弟子が一体どうして急にこんなことをしたか、その理由はすぐに思い当たった。以前孔明がした行為をそのまま真似たのだろう。おそらくそこに他意はない。
 彼は一呼吸置いて、目の前にある細い腰を抱き寄せた。
「どうせならこうやって抱き合った方がいいな。君の身体は柔らかくて温かいから癒される」
 聞こえるか聞こえないかぎりぎりの音量で呟いたら、頭上からくすくすと鈴を転がすような笑い声が響いた。
「甘えられてるみたいで嬉しいです」
 そんな可愛いことを言われたら色々と止まらなくなってしまいそうだ。
「……今日はよく働いたし、疲れているときくらい情人に素直に甘えたって罰は当たらないだろう」
 花の胃の腑の辺りに顔を埋め、孔明は抱き締める腕に力を込めた。
 髪を梳くように撫でる手の感触が心地いい。目を閉じたらこのまま眠ってしまいそうだ。
「あの……あんまり長い時間は無理ですけど、膝枕、します?」
 こちらの眠気を察知したのか、絶妙な機でもっておずおずと切り出されたその提案はあまりにも魅力的な誘惑で――。
「これだけ頑張ったんだから、ご褒美をもらってもいいかもね」
 溜まった疲労で難しいことを考えるのが面倒になっていたこともあり、孔明は睡魔と色欲の両方を満たせるその誘惑にあっさり白旗を掲げたのだった。








HTMLにまでしておきながらアップするのを忘れてた掌編です。というか、書いたことすら忘れてました(笑)
ファイルの日付が秋頃だったので、たぶんリハビリかたがた書いたんだと思います(うろ覚え)

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