穏やかな午後のひととき Presented by なばり みずき
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「玄徳様が花を見つめる眼差しって、普段の五割増くらいで甘ったるいわよね」 あれで二人きりだとどうなるのかしら、と芙蓉が洩らす。 返答を期待しての発言ではなく単なる独り言のようなものなのだろう。 それは重々承知していたが、雲長は少しばかり苦い表情で応じた。自分も同じようなことを思っていたからだ。 「二人きりになったら確実に倍増しだろうな」 あまり感情的にならないようにとは思ったが、どうしてもげんなりした色が混ざってしまうのは否めない。 これには芙蓉も同感だったらしく、 「うわ、想像できるのがまた微妙ね」 彼女にしては珍しくうんざりした口調で肯定する。 玄徳と花が想い合っていることも、仲睦まじいことも、既に周知の事実だ。 さすがに表立って公表されたわけではないが、二人の態度は実に判りやすく、軍の主立った者達は大半が気づいているという状況である。 彼らがそれぞれ葛藤を抱き、紆余曲折の末にこういう形で収まったことを知る雲長や芙蓉としてはこの結果を喜ばしく思っているのも事実だが、その微笑ましさも度を超えると少しばかり面映ゆい。 「まあ、でも、喧嘩したりするよりはいいかしらね」 「だな」 直接話を聞いたわけではなかったが、花が玄徳のことで胸を痛め、何度も涙を流していたことは想像に難くない。それを思えば、今の状況の方がよほど好ましいというべきだろう。 たとえ見ているこちらが胸焼けしそうなほど甘ったるい空気を垂れ流されたとしても。 苦笑を交わしあった彼らの視線の先では、玄徳と花と翼徳の三人が何やら楽しげに雑談をしている。 「それにしても……翼徳殿も、気を利かせてあげればいいのに」 「あいつにそれを期待する方が無理な相談だろう。まあ、三人とも楽しそうだし、あれはあれでいいんじゃないか」 雲長はふっと表情を和ませると、視線を手元に戻して武具の手入れを再開した。 対する芙蓉は少しだけ不満そうに鼻を鳴らしたが、特に反論することなく静かに白湯へと手を伸ばした。 それは、とある午後のひととき。 吹き抜けていく風は人々の気持ちを代弁するかのように温かく穏やかなものだった。 |
見守る人々、雲長&芙蓉篇。 あまりに短いのでブログに上げようかとも思いましたが、こちらに。 (他ジャンルの作品で、このくらいの長さのを上げてたコトもあるので許されるかな〜と) 玄花前提だと雲長と芙蓉は微妙に息が合ってるんじゃないかと思うのです。 まあ、芙蓉姫にそれ言ったら、ものすごーーーく不満そうな顔で否定されそうですが(笑) |