今日の占い Presented by なばり みずき
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朝、目が覚めて知明がまず最初にするのはテレビをつけることだ。 そして、朝のニュースをBGMにインスタントのコーヒーを淹れる。可愛い恋人の淹れてくれるコーヒーの味には及ぶべくもないが――旨さの秘訣は、彼女曰く「愛情がたっぷり入ってるから」らしい――目覚まし代わりの一杯は習慣になっているから外せない。これを飲まないと頭が冴えてこないのだ。 「結婚したら、毎日あのコーヒーが飲めるわけか」 思わず呟いて苦笑する。 相手はまだ高校生だ。いくらなんでも気が早すぎる。 同じセリフを彼女の前で言ったらどんな顔をするだろうか。 きっと驚いたように目を見開いて、それから真っ赤になってこう言うに違いない。 「もう、すぐそうやってからかうんだから!」と。 ニュースはいつのまにか終わりに近づき、今は女性アナウンサーが全国の天気を伝えている。見るともなしに目を向けると、ちょうど占いのコーナーが始まったところだった。 『今日一番ラッキーなのは射手座のあなたです。恋愛運が絶好調。意中の相手を積極的に誘ってみましょう。ラッキーパーソンは、髪の長い年下の女性。続いて……』 アナウンサーのテンポ良い紹介をよそに、ふっと表情を和ませる。 占いなんて、普段は殆ど信じないの知明だったが、今のはまるで自分のことを言われているような気がしてならない。 「恋愛運が絶好調で、ラッキーパーソンが髪の長い年下の女性とは、また……」 呟いて、また微笑う。 窓を開けると、外は良い天気で風も穏やかだ。天気予報を信じるなら、この晴天は二、三日続くと言うから夕方になっても天気が崩れることはないだろう。 「たまには、占いを信じてみるのも悪くないかな」 知明は携帯電話に手を伸ばし、愛しい年下の恋人へとメールを打った。 『今日の放課後、デートしようか』 長々と書くのはガラじゃないから、それだけ打って送信する。 小さな液晶画面に送信完了の文字が出たのを確認して、二杯目のコーヒーを淹れるべく立ち上がった。 そうだ、せっかくだから彼女に飲ませるつもりで淹れてみよう。愛情をたっぷり注いで――。 そのコーヒーは、彼女が淹れてくれたものより若干劣るものの、確かにいつもより少し美味しく感じられた。 なるほど、愛情が隠し味になるというのは、まんざら冗談でもないのかもしれない。 知明が最後の一口を飲み干した時、メールの返信を知らせる着信音が鳴り響いた。 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 今日の朝食は大好きなフレンチトーストだった。 それだけで普段の二割増しくらい良い気分になったあんずは、身だしなみを整えながらテレビで時間を確認する。 時報代わりにつけているのは、ややエンターテイメント色の強いニュース番組だ。色とりどりの花に囲まれた女性アナウンサーが今日の天気を告げている。 次は占いのコーナーだ。 女の子というのはとかく占い好きと相場が決まっているものだが、あんずも例に漏れず、ついつい真剣にチェックしてしまうクチである。信憑性やなにかは関係ない、気になるものは気になるのだ。 『今日一番ラッキーなのは射手座のあなたです。恋愛運が絶好調……』 自分の星座でなかったのは少し残念だが、射手座は大好きな恋人の星座である。彼の恋愛運が絶好調ということは、恋人である自分の恋愛運もまた良いと言えないこともない。 尤も、占いなんて信じるようなタイプではなさそうだから、そんな話を当人にしたところで笑われるのが関の山だろう。 そんなことを思っている内に画面は切り替わり、二位から六位の星座が表示された。 『三位は獅子座のあなた。アフター5に思いがけないお誘いがあるかも。用事は早めに片づけておきましょう。五位は……』 獅子座は自分の星座だ。 当たるかどうかはともかく、良いことを言われているのでやはり気分は良い。 先ほどの射手座の占いと照らし合わせて考えて、放課後にデートでも出来たらいいな、などと思ってしまう。 と、軽快な呼び鈴の音が響いた。 「あんず、諒子ちゃんが来たわよ」 「はあい!」 こみ上げてくる嬉しさをひとまず横に追いやって、あんずは慌てて鞄を掴むと足早に玄関へ向かう。寝坊などをして待たせてしまうこともままあるが、今日は出掛ける支度はちゃんと調えていたからそんな心配もない。 「おはよう、あんず」 「おはよう、諒子ちゃん。それじゃ、お母さん、行ってきまーす」 玄関を出た途端、諒子が意味ありげな含み笑いを浮かべてあんずの肘を突っついた。 「なんや、良いことでもあったん?」 「えっ? ど、どうして?」 妙に鋭い親友の言葉に、あんずは驚いて目を白黒させた。 単にあんずが感情をすぐ顔に出してしまうというだけの話なのだが、当の本人はそんなこと微塵も気づいていない。 「どうしてって……」 諒子は苦笑してあんずのほっぺたをむにゅっと引っ張った。 「顔、めちゃめちゃニヤけとるで」 「えっ?」 赤くなる顔を隠すように慌てて両手で頬を覆う。 別に隠し立てするようなことではないが、こんな些細なことで舞い上がってしまっているのが照れ臭かったのだ。 諒子はあんずの頬を、覆った手の上から更にツンツンと突っついた。 「照れるな照れるな。で、何があったん?」 こういう時の諒子には敵わない。 あんずの方も、何が何でも隠したいというわけではなかったから、秘め事を話すように、小声で先ほどの占いのことをポツリポツリと話し出した。 聞き終えた諒子は、少しだけ神妙な顔をして「なるほどなあ」と呟いた。 「その占いがもし当たってるとしたら、さしずめ『早めに片づけといた方が良い用事』っちゅうのは文学史の小テストのことやろな」 「ああっ」 小テストのことなんて、今の今まですっかり忘れていた。 現国の先生はなかなかに厳しくて、十問中七問以上正解しないと放課後に居残りをさせられるのだ。 慌てたあんずの耳に、聞き慣れたメロディ――携帯電話のメールの着信音だ――が聞こえたのは、それからきっかり五秒後のことだった。 斯くして、楽しいアフター5を迎えるべく、教室に着いたらすぐにでも小テストの勉強をしようと心に誓うあんずなのだった。 占いも、たまにはピッタリ的中するものらしい。 |
最初は獅子座のラッキーパーソンも考えていたのですが、 よくよくチェックしたら1位と12位にしか言ってなかったのでその部分は割愛。 考えていたラッキーパーソンは『眼鏡をかけた人』だったんですけどね。 使えなくてちょっと残念(苦笑) 『一之瀬 Ver.』と『あんず Ver.』に分けようかとも思ったのですが、 それだと、それぞれがあまりに短すぎるのでひとつに纏めちゃいました。 ※このお話は以前なばりみずきの個人サイト『香茶苑』で公開していた作品です(初出 2003/05/31) |