愛しい想い Presented by Suzume
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ずり落ちてきた眼鏡を無意識に指で押し上げたら、興味津々といった風に見上げてきている目とぶつかった。 「何?」 目元を和ませて聞いた林斗に、愛しい少女ははっとしたような顔をして頬を抑えた。 「何、どしたの?」 もう一度尋ねたら、今度は口の中で何やらもぐもぐ言いながら視線を逸らされてしまった。 こんな態度を取られて気にならないはずがない。 それともそれを狙ってこんな態度を取っているのだろうか。 思いついた考えは瞬時に打ち消した。 良くも悪くもまっすぐな彼女にそんな駆け引きなんてできっこないからだ。 「恋ちゃん、そういう態度取られるとすっごく気になるんだけど?」 微かに染まった頬を隠すように押さえている手の上へ自分のそれを重ねて、少しだけ力を入れてこちらを向かせた。 「俺には言えないこと考えてたの?」 「違っ……」 「じゃぁ何? 素直に吐かないと悪戯しちゃうよ?」 彼がにっこり笑って告げた途端に恋の顔はますます赤味を帯びた。 「い、悪戯って……何する気ですか!?」 「何しようかな。恋ちゃんが恥ずかしがるようなことなら何でも良いけど」 意地悪く目を細めて楽しげに言ってやる。 語尾にハートマークが付いてそうな口調で。 半分は口を割らせるための放言だが、もう半分は本気だった。 恥ずかしがる彼女はたまらなく可愛らしくて、ついつい苛めたくなってしまうからだ。 素直な恋は当然その言葉を鵜呑みにして、慌てたように首を振りながら 「べ、別に言えないようなことじゃないです!」と言った。 「だったら、ほら、素直に言ってごらん」 「それは……」 思ったことは何でもずばずば口にする彼女なのに、こんな風に口籠もるのは珍しい。 まさか本当に疚しいことでも考えていたのだろうか。 ここで急かしたら逆効果なのは火を見るより明らかだ。 別に口を割らせたいと思っているわけではないし、どうしても言いたくないようなら無理強いをするつもりはない。 しかしそういうのとも少し違う気がしたから、林斗は黙って彼女が口を開くのを待った。 「……たんです」 「え? ごめん、聞こえなかった」 「だから、見とれてたんです!」 よく聞き取れなくて聞き返した彼に、恋は噛みつくようにそう言って恥ずかしそうに目を伏せた。 告げられた言葉の意味が頭の中で上滑りする。 林斗は思わず目を瞬かせてまじまじと目の前の少女を見てしまった。 彼女の頬は羞恥に染め上げられていて、悔しそうに唇など噛み締めているのが言葉にならないほど愛らしい。 彼は思わず口元を綻ばせて、頬に添えていた手をそのまま恋の背中に滑らせた。 「そんな可愛いこと言う子にはお仕置きが必要かな」 言うが早いかその華奢な身体を引き寄せて、柔らかな唇にキスをした。 彼女は普段の強気な態度とは裏腹に、恋愛に関してはひどく奥手で、林斗の口づけに対する仕草はあまりにぎこちない。 それでも恋なりにこちらの想いに応えてくれようとしてくれているのが伝わってきて、彼女の愛情の深さを教えてくれた。 ひねくれ者の自分がこんな風に人を愛する日がくるだなんて、一体誰が想像しただろう。 胸が締めつけられるような愛おしさで満たされていくのを感じながら、名残惜しい気分で唇を離した。 ほぅっ、と喘ぐように息を吐いて、恋の身体からへなへなと力が抜けていく。 慌てて支えてやったら、誘うような濡れた目に捉えられた。 上気した頬も、キスで濡れた唇もたまらなく官能的で、林斗の自制心をやすやすと突き崩していく。 とはいえ彼女の祖父からボディーガードを仰せつかっている親友が迎えにくるまであと数分――そんな僅かな時間で一体何ができるというだろう。 「こーら、そんな目で見ないの。俺の自制心にも限界があるんだから」 「そんな目って?」 「そんな誘うような目で見られたらその気になっちゃうでしょ」 林斗は冗談めかして言って、愛しい少女の額を指先で軽く突っついた。 「続きはまた今度ね、お姫様?」 「つつつ続きって……!」 真っ赤になって口をぱくぱくさせる恋の表情からは、もう先ほどまで滲ませていた艶気はない。 本音を言えばすぐにでも頂いてしまいたいところだが、大切で決して傷つけたくはないからもう少しだけ君のペースに合わせてあげる。 だから、早く追いついておいで。 胸の奥でひっそり囁いて、林斗は恋のこめかみにそぅっと口づけを落とした。 |
ひめひびに(というか林斗先生に)萌えに萌えていたとき、 あまりに萌えが止まらずにガス抜きのためと称してブログに書いたSSです。 「いずれ、サイト内にひめひびコンテンツを……!」と思っていたのですが いつのまにやら落ち着いてしまいました。 あっでも林斗先生に対する萌えは未だに冷めることなく燻り続けておりますので そのうちまたネタが思いついたら何か書くかもです! (初出 2007/02/18) |